発行日 2011年12月26日

アートウェブマガジン ヨコハマ創造界隈

vol.15

Catch UP! イベントレポート

2011年11月30日に象の鼻テラスで行われた「PORT JOURNEY Yokohama⇔Melbourne トークサロン「都市とメディア—クリエイティブシティにおけるローカルメディアの有効活用」。そこに参加された、メルボルンのローカルメディア『BROADSHEET』寄稿編集者のDan Ruleさん、美術評論家の福住廉さんにレポートしていただきました。
On November 30 2011 at ZOU-NO-HANA Terrace, ‘Port Journey Yokohama ⇔Melbourne Talk Salon: City and the Media — Effective use of local media in the creative city' was held.
Who creates culture?
A report on participation in talk salon:Port Journey Yokohama ⇔Melbourne
Report on participating in 'City and the Media — Effective use of the local media in a creative city'
by Ren Fukuzumi (Art Critic / Chief editor for HAMArt!)


ENGLISH

文化を創るのは誰か?
——PORT JOURNEY Yokohama⇔Melbourne トークサロン
「都市とメディア—クリエイティブシティにおけるローカルメディアの有効活用」に参加して

福住廉(美術評論家/『HAMArt!』編集長)

[ダン・ルールさんの特別寄稿はこちら

 

2011年11月30日、象の鼻テラスでPORT JOURNEY Yokohama⇔Melbourne トークサロン「都市とメディア—クリエイティブシティにおけるローカルメディアの有効活用」(※)が開催されました。当日は二部構成で、前半はメルボルンのローカルメディア『BROADSHEET』の寄稿編集者Dan Ruleさんによるプレゼンテーションがあり、後半はDanさんを中心にした座談会が、公益財団法人横浜観光コンベンション・ビューロー広報担当の髙木美希さん、OPEN YOKOHAMA2011のPRディレクター茂市玲子さん、ACYコーディネーターの池尻美紀さん、『HAMArt!』編集長の福住廉をまじえておこなわれました。ここでは、当日の議論に参加した者の視点から、簡単ではありますが、その内容をレポートします。

Danさんによれば、『BROADSHEET』はメルボルンのアートやエンターテイメント、ファッション、フード、ナイトライフの情報を伝えるローカルメディア(ただしシドニー版もあります)。2年前に創刊され、ウェブで毎日5本の記事を更新していくとともに、季刊でフリーペーパーを発行しています。ウェブは月間アクセス数が150万、フリーペーパーの発行部数は2万部。ウェブサイトをのぞいて見ると、ファッション雑誌のようなスタイリッシュなデザインが目を引きます。どうやらメルボルンの文化シーンを代表するローカルメディアとして人気を集めているようです。Danさんは、ライター兼編集者として『BROADSHEET』に関わりながら、アート系の書籍や雑誌を取り扱う書店を経営するほか、小規模な出版も手がけるなど、メジャーとマイナーの双方にまたがって精力的に活動しているそうです。

 

座談会では、まずDanさん以外の登壇者がそれぞれの活動について簡単に報告したのち、ローカルメディアのあり方やクリエイティブシティにおける情報発信について意見を出し合いました。ただ、時間が限られていたこともあったのでしょうが、全体的に議論は散漫で、表面的な水準を周回しながら、最後まで論点を絞りきれずに終わってしまったような印象でした。来場者のなかの文化行政マンから盛んに発言や質問がありましたが、もっとメディアを制作する現場が抱える問題点や展望について議論を深めるべきだったように思います。なぜなら文化を創るのは、あくまでもアーティストやライター、編集者、あるいは広い意味での市民であり、文化行政の仕事はそれらの現場を後方から支援することにあるからです。

 

Danさんが紹介していたように、『BROADSHEET』は既存のマスメディアに飽き足らなかった若いアーティストたちが、自分たちで情報を発信するために自分たちでメディアを作りはじめたことに由来しています。その自発的な動機があったからこそ、現在の『BROADSHEET』の成功が導かれたわけです。逆に言えば、そうした草の根レベルの土台が整わなければ、いかなる文化の成熟もありえない。どれだけ戦略や構想、あるいは箱物を充実させたとしても、肝心の「人」が育たなければ本末転倒に終わることと同じです。クリエイティブシティとしての横浜が先行するメルボルンに学ぶべき点があるとすれば、そうした市民による草の根レベルの文化活動をいかにして応援することができるのかという点にあるはずです。

とはいえ、振り返ってみれば、じつは横浜にはすでにそうした土壌が育まれつつあります。アーティストの川俣正さんがディレクターを務めた2005年の横浜トリエンナーレのもっとも大きな功績は、アートに関わるひじょうに多くの市民を生み出したことです。「はまことり」という広報チームが活発に活動したのをはじめ、ボランティアの人たちが積極的にトリエンナーレの運営に関わる姿が目立ちました。市民がアートに関わる選択肢が、「鑑賞=消費」にとどまらず、「参加=生産」にまで増えたといってもいいでしょう。つまり、『BROADSHEET』を必要とした動機が、横浜にはすでに生まれていたのです。アーティストではなく、文化行政マンでもなく、美術関係者ですらないけれど、その周辺で活発に動きながら自分たちの現場を作り出し、そこを拠点にしたコミュニティを形成しながらそれぞれのやり方で文化を創出する文化生産者たち。彼らこそ、横浜が誇るべき文化資源にほかなりません。

残念ながら、その後の横浜トリエンナーレは「市民参加」という側面を十分に発展させることはありませんでした。ただ、川俣さんによってまかれた種は、別の現場で発育しつつあります。たとえば、わたしが編集長を務める『HAMArt!』(ハマート)には、2005年の横浜トリエンナーレに参加した市民を含めて、じつに多様な人たちが関わっています。『HAMArt!』は、2006年以来毎年一回のペースで5000部ほど発行するフリーペーパーで、『BROADSHEET』とは比べ物にならないほど小規模なメディアですが、著名なアーティストへのインタビューや簡単なレビューを掲載しているという内容面では、『BROADSHEET』と通底しているように思います。そのほかにも、美術館のレストランに勝手に星付けをして評価する美術館ミシュラン、美術の展覧会を見て俳句を詠むアート俳句、街歩きによってその土地に残された縄文や江戸の記憶を読み取るアースダイバーなど、『HAMArt!』には商業誌では見られない独自の記事を企画してきましたが、これらはいずれも『HAMArt!』に参加しているメンバーが自分たちで発案して記事にしたものです。そのたくましくも軽やかなDiY精神は、先ごろ参加した「新・港村」では、ついに自分たちで調達したガリ版で『HAMArt!』を手作業で印刷するというところにまで展開しました。これまでの6年間にわたって、各地の美術館や画廊に丹念に配布したせいか、横浜発のインディペンデント・メディアとして『HAMArt!』の名は全国的に知られつつあります。

 

もちろん『HAMArt!』は一例にすぎません。横浜にはほかにも数多くの文化生産者たちがそれぞれの活動に邁進しています。メディアとコミュニティは不可分の関係にありますから、コミュニティがあるところにはメディアが発達しますし、メディアが活発になればコミュニティが成長します。だとすれば、クリエイティブシティとしての横浜の今後の課題は、いまある無数の文化的なコミュニティ=メディアをいかにしてつなぎあわせることができるのか、すなわちそれらを「編集」する構想力にあるのではないでしょうか。その編集作業がうまくいけば、そこから新たなコミュニティ=メディアが生まれ、次々と新たな動きが仕掛けられていくはずです。そのダイナミックな展開こそ、文化の成熟というべきです。

Danさんが口にしたコメントで印象深かったのは、メルボルンの文化はすでに完成形に近づいているということでした。それは、裏を返せば、草の根の活動が制度化されることによって、当初の野生的で魅力的なエネルギーを失うこともあるということです。どんな文化であろうと、在野から制度への過程を歩むのは必然ですが、ここで重要なのはその過程を歩むのはあくまでも文化的な生産者たち自身であるということです。散歩が楽しい経験であるように、わたしたちはその道のりを楽しみながら闊歩していくことでしょう。

 

(※)象の鼻テラスが横浜の姉妹、提携港がある世界の港町との文化的交流を図るプロジェクト。
文化活動をけん引する有識者を招きディスカッションを重ね、都市文化に触れる機会を創出する文化コンテンツをジャンルレスに展開。
2011年9月にオーストラリアのメルボルンとの交流が始まっている。

 

 

関連サイト

象の鼻テラス http:www.zounohana.com/
BROADSHEET http://www.broadsheet.com.au/melbourne/
HAMArt!ブログ http://blog.livedoor.jp/hamart_yokohama/archives/51196556.html

 

 

プロフィール

福住 廉[ふくずみ れん](美術評論家/『HAMArt!』編集長)

1975年生まれ。著書に『今日の限界芸術』、共著に『フィールド・キャラバン計画へ』、『ビエンナーレの現在』、編著に『佐々木耕成展図録』など多数。東京のギャラリーマキで連続企画展「21世紀の限界芸術論」をキュレーション。現在、東京芸術大学大学院、女子美術大学非常勤講師。

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