

On November 30 2011 at ZOU-NO-HANA Terrace, ‘Port Journey Yokohama ⇔Melbourne Talk Salon: City and the Media — Effective use of local media in the creative city' was held.
ダン・ルール(豪『BROADSHEET』寄稿編集者)
[福住廉さんのレポートはこちら]
小さな路地裏のネットワークをコースに、進藤詩子と私は黄金町界隈をぶらついていた。日も暮れて辺りは暗くなっていたが、点在する街灯やネオンの光が空の輪郭を明らかにし、時折高架線を通過する列車がゴトゴトと音を鳴り響かせていた。
東京に住むアーティスト・アートワーカーである進藤さんと私は、象の鼻テラスのプロジェクト、聞き耳ワールドのオーディオツアーを録音中だ。テラス主催の「PORT JOURNEY」(象の鼻テラスを中心とし、横浜のアートコミュニティーと姉妹港間でのアイディア・知識・思想の交流を図る企画)のトークイベントに招待され、私はメルボルンから横浜を訪れている。前日この界隈を案内された時、黄金町エリアマネージメントの岩崎美冴さんから、かつてこのエリアは売買春等の違法な営業を行う小規模店舗が約250店舗あったことを学んだ。今日はそのような町のイメージを再定義する、クリエイティブスタジオや空間の再利用を見学しに黄金町を再び訪ねている。
「PORT JOURNEY」の企画で横浜に滞在した期間は短かったが、私には黄金町が、この横浜市が得意とするところの縮図であるように思えた。芸術不動産などの中間支援プロジェクトを進めるアーツコミッション・ヨコハマからの支援を受け、低予算で多彩な利用を目的とした多様なジャンルのクリエイティブな企画やスペースが、手頃な価格で場所を手に入れることが可能となり、作品や仕事を発表して近隣地域の活性化を手助けするための新しいアプローチを実験・探求する機会が与えられている。市は、横浜トリエンナーレといった名のある国際的なイベントの重要性を理解しているだけでなく、創造的・文化的な生産活動に対する早期的な援助を積み重ねることの必要性を心得ているようだ。
私の住む街メルボルンは、対照的に、未使用の都市のスペースを、商業的な価値を急速に作り出す業者の手に渡してきた。地価や家賃の急上昇により、街の中心で活動スペースが確保できないので、ほんの一握りの若手ギャラリーや創造スペースだけが商売や投資活動をせずにスペースを運営している状態だ。メルボルンは非常に活発なアートシーンやコミュニティーがあり、多数の現代美術のための施設や美術館があるが、草の根的な創造活動は、ますます街の周辺にその場を追いやられている。それは横浜の状況とはかけ離れている。
横浜市は、数多くの他の自治体と異なり、創造空間を支援する重要性と、アート、デザイン、文化的追求が、見捨てられた都市空間を生き返らせるといった波及効果を持つことを、率直に受け止めているようだ。黄金町内の実験的音楽スペース、「視聴室その2」やL PACK(小田桐奨と中嶋哲矢)による「竜宮美術旅館」/L Campでのカフェと創造スペースの活動。かつて信用金庫だった3階建ての物件を改造し、ギャラリー、ライブパフォーマンススペースとバーを運営する「似て非ワークス」、主要なアート組織であるBankART1929や、創造的な企画や交流プログラムを背景にカフェや休憩所を提供する象の鼻テラスのようなコミュニティーに焦点を当てた公共施設。横浜市は、より広いコミュニティーと繋がる草の根的なアートプロジェクトを支える、驚くべき小規模なインフラストラクチャーを持っている。
「PORT JOURNEY」のトークサロンでは、私は文化発信メディア『BROADSHEET』の寄稿編集者、そしてメルボルンの主要新聞『The Age』誌の美術批評家としての自身の活動を紹介した。プレゼンの事前リサーチとして、一連のクリエイティブシティ政策の元で活動するアートワーカー、スペースの運営者、アーティスト、デザイナーやクリエーターに直接会って話を聞く機会を得た。彼らの多くは、市が彼らの創造的活動に真に興味を持ち、研究していると感じているようだった。その一人、小泉雅生氏は、馬車道にある宇徳ビルヨンカイに小泉アトリエを構えていて、象の鼻テラスのデザイン設計を請け負った建築家だ。
「建築家とアーティストの関係だけでなく、市と行政の関係が素晴らしいのです。」と小泉氏。「私は東京で20年間オフィスを構えましたが、東京都の役人と会ったことは一度もなかった。しかし横浜では、まだ越して半年も経たない内に副市長が私の事務所を訪ねてきたのです。1回どころか何回も!」
「私たちは自分たちが街を変えることができる、そしてその一部であると感じることができる。東京では、自分たちが街の未来の一部と感じることは非常に少ない。」
BankART1929の副代表の溝端俊夫氏も同様の意見で、「日本の他の地方自治体と比べ、横浜はとても優れている。」と語った。「彼らは、芸術・文化と、そこからポジティブな物事を引き出すことに非常に興味があるのだ。」
このような支援環境があるにも関わらず、横浜全体のアートコミュニティーに関わる多くの人が、横浜市には意義のある内容を取り上げ、場所やイベントへのコメントや情報を提供する十分なメディアのインフラストラクチャーが不十分である、と考えていることは、大変興味深い点であった。
ただし、それは横浜に活発なメディアが存在しないということではなく、例えば、PORT JOUNEYのディスカッションの登壇者の一人、美術評論家で編集者の福住廉氏が紹介した『HAMArt!』は、批評的な姿勢を持ち、独立した立場から地元のアート活動を積極的に取り上げるインディペンデントフリーペーパーということで、私はとても興味を引かれた。また、他の登壇者の方々による小規模のメディアに関するプロジェクトの話も興味深かった。
むしろ問題は、横浜の芸術と文化が自らのサークルの外に向けて発信するメディアを持っていない、という点にあるようだ。市のメディアの地平にアートに特化した出版物があるということは非常に重要で、それはアーティストと観客というコミュニティーの絆を深める鍵となる役割を果たす。しかし特化されたメディアはいつも決まって、自身のヴィジョンを明確に表現し、既存のアートコミュニティーの外側の人々の関心を引きつける能力に欠けるものだ。簡潔に言えば、メディアは転化した内容を褒める傾向があるのだ。
『BROADSHEET』は、さまざまな創造的な分野と、フード、ファッション、ナイトライフ、デザインやアートを含めた現代社会の文化的生活を取り上げている。私はトークサロンで「ターゲットを絞りつつジャンルを定めないメディア」という響きの悪い表現を使った。すっきりしない表現かもしれないが、やはり適切な捉え方だと思う。『BROADSHEET』の成功の背景には、例えばアートのような特定の文化的傾向や活動を、より広域の、しかし完全にメインストリームではない文脈の中に位置づけて取り上げているということがある。アートファンやデザイナー、音楽ファンや珈琲好きの人々の間で、『BROADSHEET』は、同様の価値観を共有するコミュニティーや生き方を察知し、的確に描写してきた。より広域な読者層にアプローチしながら、投資家や広告に頼らず、その波及力と影響力は急激に成長している。
横浜の創造活動の基盤について、魅力的で躍動的だと感じたことの一つは、『BROADSHEET』が目指すところと同じような趣旨を持つ点である。聞き耳ワールドの録音で黄金町を進藤さんと歩いた時、私たちは特定のアートやファッション、音楽のエリアといった場ではなく、さまざまな創造的な用途が混ざりあった場所に出会った。同様に象の鼻テラスも、湾沿いの美しい光に溢れた景色を讃えつつ、魅力的な観光目的の建造物、或は「休憩所」として機能しているだけでなく、アートからデザイン、フード、パフォーマンスやコメディー、詩の朗読やさまざまな企画まで、広く一般の人に向けてダイナミックで創造的な活動を紹介する場所であった。
これはもちろん、外部の人間の視点ではあるが、メディアの仕事が都市文化を反映し的確に表現することならば、横浜市が複合的なジャンルを対象とした多目的なメディアの表現の場として、完璧な文化的環境を備えていることは自明と言えるだろう。文化の成熟の為に、私たちはその活動者と潜在的オーディエンスや参加者を結ばなければならない。そして質の高いメディアは、多勢にはできない適切な方法でそれを成し遂げることができるのだ。
※詩子と私の「聞き耳ワールド」はこちらからダウンロードできます。
http://www.kikimimi.org/2011/?p=609
*聞き耳ワールドとは?
「聞き耳ワールド」は、美術家の小山田徹が発案した、これまでにない「お散歩型」音声ガイドです。本プログラムで提供される音声は、ホスト役、ゲスト役の二人が実際に街を“お散歩”したときの会話を録音したもの。参加者は、音声データをダウンロードし、それを聞きながら同じルートを歩いてみることで、“お散歩”のもうひとりの参加者となることができます。肩を並べあい、時に真面目に、時に冗談を交わしながら、街を歩いていく二人の会話にそっと「聞き耳」をたててみる。その体験からは、これまでの「解説型」音声ガイドとは全く異なる街の印象が浮かび上がってくることでしょう。
主催:象の鼻テラス
ダン・ルール(アートライター)
ダン・ルールは、メルボルン在住のライター、批評家、編集者、出版者。2000年代初めより、現代美術、音楽、文化全般での活動を展開。現在メルボルンの主要新聞『The Age』誌の美術批評と週間コラムを担当、メルボルン/シドニーの文化発信メディア『BROADSHEET』の寄稿編集者でもある。他に『The Sydney Morning Herald』、『Dazed & Confused』、 『Oyster』、『Artist Profile and Music Australia Guide』など多数のメディアに寄稿。また、草間弥生、Tracey Emin, Gilbert & George, AES+F, Pipilotti Rist, Stephen Shore, Nas and Erykah Baduなどの著名人へのインタビューの経験がある。