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Catch UP? イベントレポート
  • 北仲スクール「大森克己の写真ワークショップ」レポート

Catch UP? イベントレポート

大森克己ワークショップ レポート vol.2

2010年度後期北仲スクール ワークショップ科目
大森克己の写真ワークショップ「そして世の中には写真に写らないものがある」

北仲スクール ワークショップとは

 北仲スクール(正式名称:横浜文化創造都市スクール)は横浜国立大学、横浜市立大学、東京藝術大学、神奈川大学、関東学院大学、東海大学、京都精華大学の7つの大学が共同で運営する、まちのなかの「サテライトスクール」です。2009年9月からのプレオープン期間を経て2010年4月に正式開校し、今年度で2年目を迎えています。「都市文化創成」と「都市デザイン」を2本柱にカリキュラムを構成し、映画、演劇、音楽、マンガ、建築、ランドスケープ、まちづくりなど、さまざまな領域を横断しつつ、横浜市の文化芸術創造都市政策と連動しながら、通常の講義科目の他に「公開講座」や「ワークショップ」を行っています。


「大森克己の写真ワークショップ」は昨年度後期の目玉のワークショップとして開催されました。またワークショップのみならず、どなたでも聴講可能な公開講座(全3回/どなたでも無料で聴講可)も大森克己さんと一緒に企画。こうして半年間、学生も一般の方々も、写真をめぐる刺激的な時間を過ごすこととなりました。

 横浜という都市はいくつもの芸術、文化が最初に輸入された都市です。写真もまたそのひとつです。そんな「写真発祥の地、ヨコハマ」で、いま最前線で活躍されている写真家・大森克己さんをお呼びして写真について一緒に考え、実践する。横浜ならでは、というのが何かはわかりませんが、ここでしか、そして北仲スクールでしかできないワークショップにしたいと、担当教員の彦江智弘さん、榑沼範久さん、平倉圭さん(以上、横浜国立大学)、そして大森さんと、当初から話し合っていました。

 ここでは以下、スタッフとして関わった私の個人的な感想も含めて、このワークショップの報告をしようと思います。

 

さまざまな受講生たち


 写真家・大森克己さんを講師に迎えた写真ワークショップが、北仲スクール正規授業科目として開催されたのは2010年11月〜2011年3月。170人以上の応募者から抽選で選ばれた30名が、このワークショップに参加。年齢も職業も、住む場所もさまざまな受講生たちは、そのほとんどが写真を始めたばかりだったり、いわゆる「初心者」です。なかにはこのワークショップ参加をきっかけにカメラを持ち始めた学生さんもいました。もちろん北仲スクールの正規授業ですので参加費は無料。こういったワークショップはかなりの受講料を払うのが通例ですが、受講料無料は今回のひとつの特徴だと言えます。

 

【課題1】「一番好きな/気になる写真」を持ち寄って

 11月中旬。ついに第1回目のワークショップ。受講生たちはみな緊張の面持ちです。せっかくなので時間を無駄にしたくないという大森さんの意向から、第1回目のために「自分の一番好きな/一番気になる写真」を持ってくるよう、受講生には指示がありました。全員がその写真をプレゼンしていきます。それを受けての大森さんのことばは、コメントというよりも、対話へのきっかけという感じです。技術的なことではなく、彼(女)がどんな嗜好を持っていて、どんな視線を持っていて、そしてどんな生き方をしているのか……。話は写真以外の事柄まで、多種多様に広がっていきます。

 

【課題2】「いちばん会いたい人に会いに行く」:パッションへの意識

 2回目に向けた課題は「いま一番会いたい人に会いにいくドキュメント」を撮ってくるというもの。
ここからもわかるように、まず大森さんは、それぞれの欲望やパッションを受講生たちに意識させようとしていました。「写真が好きだから写真を撮るってのもいいけど、その自己目的化した感じはちょっと不健康な気がするな」。


写真が好きなのは大前提。と同時に写真は自分の好きなものやひとに出会ったり、それを記録するための手段でもあります。不思議なことに肉眼ではなくカメラを構えてレンズを通すことで、より相手に近づけることがあります。他人の正面に立って、近づくことはカメラを持った方がやりやすいわけです(ちなみに先日見た青山真治監督の『東京公園』という映画も同じようなテーマを扱っていました。全然関係ないですが……)。大森さんのそんな話を聞きながら、カメラっておもしろいものだなと、受講生たちは改めて感じていたようです。

 

【課題3】「窓辺のポートレート」:重要なのは「光」!

 とはいえ、写真にとってもっとも重要な素材とは、もちろん光です。光なくして写真は成立しません。その根本的な素材を意識させるべく出された課題が「窓辺のポートレート」。ホッパーやフェルメールの絵画を参考に、自然光のみでポートレートを撮ってきてもらいます。驚いたのは、受講生たちの写真がぐっと「写真らしい写真」になっていたこと。いや、驚きではなくて当然なのでしょう。光を意識するのは、カッコいい写真を撮るためというより、写真の根源に触れること、さらに言えば自然というか自分がいま立っている環境そのものを意識することに繋がっているはずです。

 徐々に受講生たちは発見の喜びを覚えていきます。自分の撮った写真に自分で驚き、そこに発見を見いだす。そして次の写真に向かう……。大森さんは何度もその過程を強調します。受講生たちも徐々に、ぼんやりとではあるけれど、それを感じ始めていました。

【課題4】「10枚の写真」:世界をよりおもしろく見る方法

 次なる課題は「10枚の写真」。これはカメラをリサーチの道具としてとらえ、ある条件のもとに「視覚的なカタログ」をつくるというもの。たとえば「渋谷区内の10件のスタバの右隣の店舗のファサード」やら「同じ椅子に座ってものを食べる10人」やら。このリサーチ作業は、大森さんいわく「世界をよりおもしろく見る方法」です。受講生たちはいろんなアイデアをひねり出して撮ったリサーチを、でもとても楽しそうに発表していました。


【修了展】写真をどう見せるか

 どんな写真を撮るのか? それと同じぐらい重要なのが、では、その写真をどのように見せるのか? ということです。今回のワークショップでは当初から修了展の開催を予定していました。出展するのは、残念ながら30人全員ではなく20人となりましたが、どのメディアを使うのか(紙焼きなのか、モニター上での発表なのか)、どんなサイズなのか、どんな額装なのか、1枚なのか組み写真なのか……。見せ方によって写真自体が大きく変わることを、大森さんは過去の自作や他の写真家の作品をたくさん見せながら(大森さんの秘蔵写真まで見せてくれました!)語ってくれました。


 冬のさなか、合計6回行われた写真ワークショップ。毎回いろんな写真家の写真集を見せつつ写真の歴史もたどり、ときに音楽を流して、大森さんはユーモアと真摯な態度で言葉を選びながら受講生と対話を重ねていきました。技術と同じく、いや、もしかしたら技術以上に重要なもの。それは、世界をどう見るかという問いだったり、ことばではなく写真映像によってしかとらえられないものをとらえようとすることだったり、あるいは、目に見えないものこそを写真でとらえようとすることだったり……。すごく簡単に言えば、写真の楽しさと謎に思い切って身を投げ出してみること。それこそ大森さんが伝えようとしていたことなのかなと、受講生たちの顔を見ながら思いました。

 

旅はまだまだ続きます。

 だから今回のワークショップは受講生たちにとって、あくまでもスタートにすぎません。無事に開催した修了展(北仲スクール内の各所に展示しました)ですら、やはりスタートにすぎません。写真家になりたい云々にかかわらず、これからも絶対に撮り続けてほしいと、大森さんは言っていました。「いまの世の中100円ショップに溢れているよね。それを否定することもできるだろうけど、どうやったら100円ショップに魂を与えられるか、そちらの方を僕は考えていきたい」。世の中が変われば写真も変わります。そうやってつねに世界を見続ける方法として、きっとカメラはこれからも素晴らしい手段であり続けるはずです。


 最後に大森さんが写真ワークショップのチラシに記した言葉を引用して、今回のレポートを終わらせていただきます。旅はまだまだ続きます。

写真を撮るということ、あるいは写真について考えるということは、過去と未来の境界である「いま」を生きながら、目に見えるものと目に見えないものの境界を旅するということにほかなりません。一緒に旅にでませんか? 遠くまで行きましょう。(大森克己)


著者プロフィール

松井 宏[まつい ひろし]
北仲スクール事務局スタッフ。

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