

“横浜の「まちづくり」「産業」が停滞しているのは、なぜだろう。それは「マーケット」の話を抜きにしているから。今こそ、皆さん一人一人が、さまざまな「マーケット」を意識してほしい。”
――連載最終回、佐々木さんからのメッセージです。
数時間前に目にした、急な坂スタジオの元ディレクター相馬千秋さんのツイートは、今、ヨコハマが一番考えていかなければならないことを言い当てている。
公共資金を惜しみなく投入し「創造都市」を推進し、今、踊り場を迎えているヨコハマが考えていかなければならないこと。今やアジアも厳しいし、日本でも勝ち組と負け組は分かれてしまっている。でも「勝ち組、若しくは未来の勝ち組を受け入れ得る開放性をヨコハマは持ち得るのではないか」と、この間、僕に語ってくれたのはACYの杉崎栄介さん。そこにマーケットが育まれるだけの素地は充分にある。時間はかかるかもしれないけど努力する価値はある。

さて、このマーケットの話は文化芸術の話に限ったことではない。ヨコハマ創造都市センターの3つのテーマは「文化芸術」「まちづくり」「産業」。「文化芸術」はそれでも一定の成果を見つけつつあるけど、「まちづくり」「産業」は停滞していて、これもやはりマーケットの話を抜きにしているから。
「都市デザイン=横浜」と言われるぐらいに、都市の有り様に先進的に取り組んできた横浜に何が起きているのか。
確かに公共施設のデザインは良くコントロールができていて、少し旧さが目立ってはきたものの、その根本部分は揺るがないと思っている。一方で、都市デザインのもう一つの大きな構成要素となる民間建築は、良質なものがほとんどできてこなかった。これは都市政策と不動産マーケットが乖離していることが要因の一つ。日本では住宅政策と呼べるものが弱く、どこの自治体も不動産業界に丸投げして、その市場に媚びて、さまざまな規制緩和で溢れかえる現状に行き着いた。そのような状況の中で、横浜市は、例えば、集合住宅で公的に資する用途を導入すれば容積などのボーナスを受け入れられるような、独自の「アメとムチ」的な制度で、建築と都市の関係を組み立てようとしてきた。ただ、最近のマーケットの状況に伴い、「ボーナスは要らないから一般法規の範囲でつくれるだけつくってさっさと売り払おう」というのが増えてきてしまった。結果、玄関、駐輪場、駐車場、ゴミ置場、そして場合によっては住戸が1階からはじまる集合住宅が街並みを分断していく。街路に面して奥行2~3mでも良いから商業などが入ることができる空間を準備しておいてもらえれば、未来の街並みのあり方の選択肢は飛躍的に増えるのに。もちろん、その実現のためには、不動産マーケットの最新動向を分析しながら、協力して新しいマーケットをつくっていくぐらいの取り組みが必要。以前、この連載でも紹介した、芸術不動産事業と連携して2010年度にスタートした「リノベーション助成」という、オーナーも使える助成制度は、そのようなマーケットのプレイヤーであるオーナーの意識を高めていく取り組みとして位置付けられている。

「アーティストだって不動産で寝るんだから、不動産のこときちんとやろうよ」というのが芸術不動産のキックオフ。その流れでいけば「創造都市も不動産=マーケットのことを」きちんとやらなければならない。それは行政だけでは無理だし、民間に丸投げすれば良いという問題ではない。官民間連携で、意識の高いユーザーも巻き込んで「文化芸術のマーケット」「まちづくりのマーケット」「産業のマーケット」を構築し、実践していくべきタイミングにきている。

一年間ありがとうございました。

佐々木龍郎[ささき たつろう](建築家)
1964年東京生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)博士課程満期退学後デザインスタジオ建築設計室を経て株式会社佐々木設計事務所。
神奈川大学、京都造形芸術大学、東海大学、東京電機大学、横浜商科大学非常勤講師。横浜市立大学客員研究員。
千代田区景観アドバイザー。横濱まちづくり倶楽部理事。本町ビルシゴカイ住民。
横浜では最近では芸術不動産、海港横浜構想2059などに携わっている。