ヨコハマ創造不動産

「芸術不動産」という言葉の生みの親の一人、建築家佐々木龍郎さんが、不動産を切り口に、まちとクリエイティブとの関係を紹介していきます。

vol.6 「これからどうなる? ヨコハマ」―これからの『横浜』の話をしよう

“横浜の「まちづくり」「産業」が停滞しているのは、なぜだろう。それは「マーケット」の話を抜きにしているから。今こそ、皆さん一人一人が、さまざまな「マーケット」を意識してほしい。”
――連載最終回、佐々木さんからのメッセージです。


今、ヨコハマが一番考えなければならないこと

「アートで食べていく話をする場合はマーケットの話を抜きにしては成立しない。マーケットのないところで自立的に食べていく話をしてもナンセンス。マーケットはアーティストの力だけでは作れないものだし、マーケットが成立するためには歴史と文脈がいる。」

数時間前に目にした、急な坂スタジオの元ディレクター相馬千秋さんのツイートは、今、ヨコハマが一番考えていかなければならないことを言い当てている。

公共資金を惜しみなく投入し「創造都市」を推進し、今、踊り場を迎えているヨコハマが考えていかなければならないこと。今やアジアも厳しいし、日本でも勝ち組と負け組は分かれてしまっている。でも「勝ち組、若しくは未来の勝ち組を受け入れ得る開放性をヨコハマは持ち得るのではないか」と、この間、僕に語ってくれたのはACYの杉崎栄介さん。そこにマーケットが育まれるだけの素地は充分にある。時間はかかるかもしれないけど努力する価値はある。



マーケットの話を抜きにしてきた現在の公共事業


photo: Tatsuhiko Nakagawa
先日2月10日から始まり、3月31日まで、毎週木曜日の夜(19:30〜21:30)にBankART Studio NYKで開催されるバンカートスクール「これからどうなる?ヨコハマ研究会」の初回、約80人の受講生にやりたいことを聞くと「アートと都市の関係」「街なかアート」「アートと福祉」「アートと商店街」「アートと市民」など10人近くが答えた。でも、このまま話をしていても、現在の公共事業=福祉的事業路線(予算を投入し具体的な見返りを求めない事業)からは一歩も抜け出せないという危機感がある。それぞれのテーマの中に「マーケット」につながる何かを見いだしていこうとすることが大切であり、その辺りを議論できるといい。

さて、このマーケットの話は文化芸術の話に限ったことではない。ヨコハマ創造都市センターの3つのテーマは「文化芸術」「まちづくり」「産業」。「文化芸術」はそれでも一定の成果を見つけつつあるけど、「まちづくり」「産業」は停滞していて、これもやはりマーケットの話を抜きにしているから。

「都市デザイン=横浜」と言われるぐらいに、都市の有り様に先進的に取り組んできた横浜に何が起きているのか。

確かに公共施設のデザインは良くコントロールができていて、少し旧さが目立ってはきたものの、その根本部分は揺るがないと思っている。一方で、都市デザインのもう一つの大きな構成要素となる民間建築は、良質なものがほとんどできてこなかった。これは都市政策と不動産マーケットが乖離していることが要因の一つ。日本では住宅政策と呼べるものが弱く、どこの自治体も不動産業界に丸投げして、その市場に媚びて、さまざまな規制緩和で溢れかえる現状に行き着いた。そのような状況の中で、横浜市は、例えば、集合住宅で公的に資する用途を導入すれば容積などのボーナスを受け入れられるような、独自の「アメとムチ」的な制度で、建築と都市の関係を組み立てようとしてきた。ただ、最近のマーケットの状況に伴い、「ボーナスは要らないから一般法規の範囲でつくれるだけつくってさっさと売り払おう」というのが増えてきてしまった。結果、玄関、駐輪場、駐車場、ゴミ置場、そして場合によっては住戸が1階からはじまる集合住宅が街並みを分断していく。街路に面して奥行2~3mでも良いから商業などが入ることができる空間を準備しておいてもらえれば、未来の街並みのあり方の選択肢は飛躍的に増えるのに。もちろん、その実現のためには、不動産マーケットの最新動向を分析しながら、協力して新しいマーケットをつくっていくぐらいの取り組みが必要。以前、この連載でも紹介した、芸術不動産事業と連携して2010年度にスタートした「リノベーション助成」という、オーナーも使える助成制度は、そのようなマーケットのプレイヤーであるオーナーの意識を高めていく取り組みとして位置付けられている。


photo: Tatsuhiko Nakagawa
そして産業はもっと敏感。ものづくりが元気になる気配がまったくない。そんな中で、ワコールアートセンターが仕掛ける「横浜ランデヴー プロジェクト」などは、地域産業の局所的再生と新しい流通のあり方を試行しているプロジェクトと言える。先例としては、サンプルを公開し、一定数の購入者(予約)がまとまれば実際に商品を作成する、マーケット構築型の「空想生活」などが今後ますます求められてくるし、mixi、Twitter、Facebookなどのソーシャルメディアの展開は間違いなくそれを助長する。一方で、横浜は首都圏としてのマスマーケットのしがらみから、まだ抜け出ていない。「創造産業」「映像文化都市」と産業関連のビジョンを打ち立てて、関連大学を誘致してきても、肝心のマーケット構築に目が向いていないため、現在下向きになってしまっている。マーケットも域内の生活を豊かにする地産地消型産業なのか、観光を通じて域外に展開する輸出型産業なのか。367万人のユーザーを抱えているということをもう少し意識するタイミングに来ている。


今こそ、新しいマーケットを!

「アーティストだって不動産で寝るんだから、不動産のこときちんとやろうよ」というのが芸術不動産のキックオフ。その流れでいけば「創造都市も不動産=マーケットのことを」きちんとやらなければならない。それは行政だけでは無理だし、民間に丸投げすれば良いという問題ではない。官民間連携で、意識の高いユーザーも巻き込んで「文化芸術のマーケット」「まちづくりのマーケット」「産業のマーケット」を構築し、実践していくべきタイミングにきている。


photo: Tatsuhiko Nakagawa
先程紹介した「これからどうする?ヨコハマ研究会」は、そのような構築のプラットフォームになれば良いと思っていて、途中参加も可能です。ツイッターの#koreyokoでも議論の雰囲気は伝わると思います。koreyokoは「これからの『横浜』の話をしよう」の略です。今回で僕の創造不動産の連載は終わります。今こそ、不動産こそ、新しいマーケットを組み立てないと、使われない土地や建物が中心市街地に点在するような状況になってしまいます。なんとかしなければならない。そのためには皆さん一人一人がさまざまな「マーケット」を意識すること、新しい「マーケット」を生み出す意識を持っていただきたい。

一年間ありがとうございました。




著者プロフィール

佐々木龍郎[ささき たつろう](建築家)

1964年東京生まれ。東京都立大学(現首都大学東京)博士課程満期退学後デザインスタジオ建築設計室を経て株式会社佐々木設計事務所。
神奈川大学、京都造形芸術大学、東海大学、東京電機大学、横浜商科大学非常勤講師。横浜市立大学客員研究員。
千代田区景観アドバイザー。横濱まちづくり倶楽部理事。本町ビルシゴカイ住民。
横浜では最近では芸術不動産、海港横浜構想2059などに携わっている。


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